あなたは、作曲経験者でしょうか、それともこれから作曲を始めようとしているビギナーでしょうか。いずれにしても、一刻も早くオリジナル曲を作りたいという思いは同じはず。
そこで今回は、超初心者から経験者にまで通底する、作曲における基礎の基礎を、バンドSee Emily Playの曲を作っているリーダーFraky(Gt)が、いくつかの項目に分けて提示します。
そして、この基礎の基礎を常に意識して曲を作ることが、イコール「個性的」な曲作りへの近道であるということをお分かりいただければ幸いです。
ただし、いわゆる作曲の方法論(音楽理論)は、本やネットで調べれば知識として手に入れられるでしょう。
この記事では、タイトルにもあるように、作曲の心得をしっかりと頭に入れてもらうことを目的としています。
正直、音楽理論を詰め込まずとも、この心得さえ習得できていれば、いくらでも自分らしい曲を作れるはずです。
目次
あなたは日ごろ、どれくらい音楽を聴いていますか?
作曲における最重要ポイント。それは、音楽をたくさん聴くことです。
え?そんなこと?いいから早く先に進んでよ!まあ、落ち着いてください。
実は、音楽をたくさん聴くこと、すなわちボキャブラリーを増やすこと、これが他の作曲家との差別化を一気に推し進めることができる最大のポイントなのです。
ボキャブラリーは、サンプルと言い換えてもいいでしょう。
つまり、手に入れた膨大なサンプルの中から必要そうなものを選び出し、最終的にひとつの料理に仕上げる作業、それが作曲という行為だと思ってください。
ルーツ、元ネタにまで遡る
例えばあなたがRadioheadの”Creep”のような曲を作りたいと考えていたとします。
いいですね。Radioheadは、ブリットポップ全盛期の中でも、また現在のロックシーンにおいても異質の存在であり続けているバンドです。「個性的」な曲を作るという今日の課題には良き例でしょう。
Radioheadもいきなり名曲を作ったわけではない
そうは言っても、そこから新たに曲を生み出すと言うのは本当に大変。
しかし、あきらめてはいけません!先ほど例に挙げたRadioheadも、無の状態からいきなり名曲”Creep”を作ったわけではないのですから。ひとつの楽曲があれば、その楽曲には必ずルーツや元ネタがあるはずです。
”Creep”は、古き良きオールディーズ(50年代から60年代にかけてのヒットソング)がモチーフとなっている…….これはバンド側のコメントです。
確かにG-B-C-Cmという、この曲のなかで延々と繰り返される循環コードは、昔からよく耳にする王道のコード進行ではないでしょうか。
ちょっと待って!コード進行って言われても!そうですね、とりあえず順を追って話すので、まずはルーツ及び元ネタに関するお話を。
まずは全楽曲を聞こう
あなたがRadioheadのような楽曲を作りたいと思っているとしたら、おそらくその時点でRadioheadの全アルバム全楽曲を網羅していなければなりません。
え?まだ全曲聴いていないですって?それはまずいので、急いで全楽曲を聴きましょう。
なぜなら、1曲だけでそのアーティストの本質は見抜けないからです。全楽曲を聴くことで、作り手のスタイルやクセ(及びその変遷)がようやく見えてきます。そのためにも好きなアーティストの作品は全部聴きましょう。
ルーツとなる過去のアーティスト作品も聴いてみる
その次に、そのアーティストがリスペクトとして挙げている過去のアーティスト作品も芋づる式に聴いていきましょう。
”Creep”であれば、オールディーズのヒット曲の中に似たような曲が無いか探してみてください。
このような作業により、楽曲のボキャブラリーはどんどん増えていきます。また、元ネタからどのように楽曲が出来上がったのか、その秘密も発見できるでしょう。
好きなアーティストを深く知ることが大切
つまり、あなたが”Creep”に影響を受けた曲を作るとしても、それを上手く変化させてオリジナリティを確保する必要があるのです(そうでなければただのパクリです)。
自分の好きなアーティストのスタイルを見抜き、またそのアーティストのルーツにまで遡る。
そうすることで、ひとつの楽曲がどのような変遷をたどってきたのか、その「音楽のリレー」を体感できるはずです。あなたがそのバトンを受け取るためにも、このリレーの流れを把握する必要があるのです。
冒頭で、たくさんの楽曲を聴くという話をしましたが、ただ闇雲に音楽を聴くのではなく、以上のことを意識して音楽に触れてみてください。
個性的な曲を作るための3STEP
たくさんの曲を聴き、自分のものとする。つまり、先人たちの楽曲こそが次なる作曲家のサンプルとなるわけです。
しかし、その為にも、聴くだけでとどめるわけにはいきません。聴いたらすぐに弾いてみる!実践することで、コード進行を体感的に実感・習得しましょう!
楽曲を聴く
先ほどコード進行のお話をちらっとしました。コードとは楽曲を支えている和音であって、その和音が連なる(コード進行)ことでひとつの楽曲ができるわけです。
その和音の連なりにもよく耳にするスタイル、つまりパターンがある、というわけです。コード進行が頭に叩き込まれれば、もう作曲家も夢じゃない!
コードを拾う
コード進行自体は、たくさんの楽曲を聴くと同時にすぐコードを拾ってみるという作業を繰り返すことによって習得していくことができます(コード進行の参考書は必要ない!)。
何かしらの楽曲のコードを拾いたいと思ったときは、市販の楽譜及びネットで公開されているTAB譜をご覧になればいいのです。
弾いてみる
拾ったコードを自分の楽器で弾いてみてください。
この時点では「耳コピ」できなくてもかまいません(もちろんできる方はしてください)。
つまり、楽曲を聴く→コードを拾う→弾いてみる、という作業を延々と繰り返すことで、コード進行を身に着けて行くのです。
Radioheadがお好きなら、Radioheadの全楽曲のコードを頑張って拾ってみましょう。さらにRadioheadがルーツに挙げているアーティストの楽曲もコピーしてみてください。
実践することで気づきが得られる
するとある日、あなたは気づくのです。
「あれ?このコード進行はあの曲でも聴いたような?」
「このアーティストはこのパターンをよく使うよな」
ここまできたらあなたも作曲のプロフェッショナル!コード進行のパターンがばっちり頭に叩き込まれている証拠。
コード進行のパターンは、作曲におけるサンプルになりますので、とにかく増やしていってください(この段階まで行くと、耳コピも容易になっているはずです。次のコードの展開が予測できるようになるからです)。
そのためにも、楽曲を聴く→コードを拾う→弾いてみる、これを繰り返すしかありません。正直、音楽理論が理解できなくても、頭の中に作曲に必要なサンプルが増えていけばいいのです。
メロディを聴くときは曲全体で意識!
楽曲の骨格は和声(コード)である。
そうか、じゃあコード進行のパターンをたくさん知っていれば、あとはそれを組み合わせて曲を作ればいいのか!
待てよ、歌のメロディはどうするの?メロディの作り方は?
答えは簡単。メロディの作り方に方法論はありません。先ほどのコード進行の時と同じように、たくさん曲を聴いてパターンのボキャブラリーを増やす!これに限ります。
ひとつだけ注意!
曲を聴く際にはメロディだけに耳を向けないことです。コード進行やアレンジなど、曲全体を意識しながらメロディラインを聴いてみてください。
どういうメロディがキャッチーなのか、売れ線なのか、そういった先入観は捨てましょう。
曲の中でメロディラインがどう動いているのか注目
あくまで曲の中でメロディラインがどのような動きをしているかに注意してください。
例えば”Creep”では、ヴァース(J-POPで言うところのAメロ)とコーラス(サビ)、そしてブリッジ(この曲の場合「大サビ」と言っていいでしょう)へと向かっていく毎に、ボーカルの音程が徐々に上がっていきます。
静から動へと駆け上がるドラマティックな展開ですが、これはすべての曲に転用できるセオリーではありません。
”Creep”の場合、背景のコード進行は基本的にくり返しです。ですから、メロディやアレンジで緩急をつける選択肢がベストだった、と言うわけです。
もしあなたがメロディを作る時は、独立してメロディだけ考えるのではなく、曲全体(コード進行、アレンジ)の構想を練ることと並行で考えると、より良いメロディラインの選択がスムーズに熟せるかと思います。
まず「ジャンル」を決めよう!
ここまでのまとめです。作曲の心得を大きく分けて2点提示しました。
- 音楽をたくさん聴く
- ただし闇雲に聞くのではなく、好きなものはとにかく全網羅!そしてそのルーツにまで目(耳)を配る!
- 聴くと同時に実演してみる
- 「楽曲を聴く→コードを拾う→弾いてみる」の作業で、サンプルを増やそう!
この2点は、いわば作曲をする前の材料集めと言ったところです。材料が揃えば、あとは料理に取りかかるのみ。ということで、まずは作りたいジャンルを考えましょう!
料理だって、中華なのかフレンチなのか、ジャンルを決めなければどんな素材を用意したらいいか見当もつきませんよね。
例えば、”Creep”みたいなロックバンドのバラードを(ここでオルタナというジャンルが浮かぶ方は、もっと素材選びが楽そうですね!)を作りたいと思ったら……。
バラードに合いそうなコード進行を弾きながら、メロディラインを口ずさんでみてください。日ごろ、たくさん音楽を聴いているだけあって、バラード風の曲作りもお手の物です。ですが……あれ、なんかありきたりじゃない!?
“ずらす”アレンジが個性を生み出す!
言うとおりにボキャブラリーも増やしたし、楽器を持てばコード進行のパターンがいくつも弾けるようになったよ。けれども、作ってみたらすごくありきたりな曲過ぎて・・・新しさが無い!!
たしかに。ところで新しさって何でしょう?
音やコードは数が限られているから…
そもそも音は七音階(西洋音楽の場合ですが)のみ、コードだって数は限られます。本当の意味で新しい音楽を作ることはできません。そこで、ルーツと元ネタの話題を思い出して!
どんなアーティストも、先人たちに敬意を払いながら、曲に自分らしさを加味してきたはず!え、自分らしさって!?個性ってことだよね!?そうです、今回の重要なテーマです。
ここではっきり言います。個性とは、あえて変わったことをすることではなく、既成のパターン内で“ずらす”アレンジ(編曲)を加えることを言うのです!
“ずらす”アレンジとは?
アレンジを“ずらす”とはどういうことでしょう。
アレンジは、メロディをそのままに、それ以外の部分(コードや楽器編成や曲の展開など)の部分を練り直すことです。
最近のことですが、既成のパターンから「ずらし」を加えることで、「おいしい」部分を作り出しているなと思った曲があります。TVアニメ『けものフレンズ』の主題歌「ようこそジャパリパークへ」です。
この曲のコーダの部分にあたる「♪ララララー~」の箇所。バックのコードは以下のようになっています。
お手持ちの楽器で演奏してみましょう。3つ目のコードまで弾いた時点で、もうお気づきのはずです。
そう、このパターンは王道のコード進行、特にJ-POPでは頻繁に耳にしますね。ところが、4つ目のコードを弾くと、あれ?と思うはずです。通常、このコード進行は、4つ目がDm7になることが慣例です。
しかし、ここは分数コード(ベース音が本来弾くべきベース音と異なっているコード)が使われています。
耳慣れたパターンなのに、最後の和音だけ「ずらす」アレンジを加えることで、「個性的」な展開となっています(楽しい中にどことなく切なさを感じませんか?)。
何気ないひと工夫が「個性」を作り出す
そう、先人たちのパターンを踏襲していたとしても、所々でコードをいじってみる、あえてテンション系のコードを入れてみる、そういう何気ないひと工夫が、あなただけの楽曲を作り出すのです!
逆に、めちゃくちゃなコード進行を思いついたとしても、それはもう音楽と呼べるものなのかもはや分からない代物が出来上がるだけです。
そうではなく、パターン化されたものへの「ずらし」の加味、ここを押さえておけば「個性的」な楽曲はいくらでも作れるのです。そのためにも日ごろからたくさんの音楽に触れてなければならないことは、もう痛いほどお分かりですよね。
Creepにも手本があった
最後に、”Creep”の話に戻りましょう。
アレンジの段階では、コードのアレンジだけでなく、楽器編成や、曲の展開もいじってみましょう。”Creep”が名曲になれたのも、大胆なアレンジがあったからこそ。
先ほど”Creep”はオールディーズの影響下にあると言いましたが、それはバンド側の声明であり、実は直接的な手本となった曲はThe Holliesが1973年に発表した” The Air That I Breathe”であることが判明しています。
RadioheadのCreepからみる“ずらす”アレンジ
たしかにコード進行も同じだし、メロディもそっくりです(そのため現在では”Creep”のクレジットにはThe Holliesのメンバーの名前が併記されています)。
The Holliesの上記の楽曲は、フォークロックの範疇にとどまるものですが、Radioheadはこの曲に範を取りながらも大胆なアレンジによって、まったく別物に昇華させています。
具体的には、コーラスに入る前の強烈なカッティングと、そこからのへヴィなディストーションサウンドがこの曲のコアになっているのです。
この、フォークロックからグランジにジャンルを「ずらす」アレンジこそが、凡庸なコードでできた”Creep”を”Creep”たらしめていると言っても過言ではないでしょう。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
作曲に必要なことは、材料(サンプル)を自分の中に増やしていくこと。材料は自分の耳で聴いて、自分の手で弾いて増やしていくもの。
そして既成の枠組みの中で、本来ならその枠組みに入らない材料をあえて加えてみる。
それこそが「個性的」な曲作りの心得なのです。
ですから、本当にしつこいようですが、日常的にたくさんの音楽にふれることが何より大切なのです!
みなさまの作る楽曲が、素晴らしいものになることを願っています。